猫たちの街、イスタンブール:猫による猫のための都市

アメリカのリンカーン大統領が残した有名な言葉、「人民の人民による人民のための政治」がありますが、このフレーズを猫に置き換えてみたくなります。「猫の猫による猫のための街」。そう、この言葉がまさにぴったりな都市、それがイスタンブールです。

猫たちが支配する街、イスタンブール

イスタンブールに足を踏み入れたことがある人なら、すぐに猫たちが街のあちこちで出没することに気づくでしょう。猫だけでなく、犬も自由に街を歩き、時には道路で寝転がっているのを見ることができます。しかし、驚くべきは地元の人々がそれを特に気にすることなく、むしろ猫や犬のためにエサや水を用意しているという点です。動物嫌いの人には少々驚きの光景かもしれませんが、動物好きにはたまらない風景です。これが、まさにイスタンブールの特徴なのです。

イスタンブールと猫たちの深い関係

イスタンブールを語る際、猫たちの存在は欠かせません。トルコ全体が動物に対して寛容な国である中、特にイスタンブールは猫や犬が街の一部として共存している都市です。私自身も猫好きとして、この街を訪れた時、まさにパラダイスだと感じました。

これらの猫たちは野良猫ではありますが、単に路上で生きているわけではありません。地元の人々から食べ物をもらい、撫でられたり、時にはお店の中に入り込んで昼寝をする光景もよく見られます。イスタンブールに住んでいると、気がつけばスマートフォンには猫の写真がたくさん増えていることでしょう。

映画で描かれるイスタンブールの猫たち

イスタンブールの猫たちをテーマにしたトルコ映画「Kedi(猫)」も、こうした猫と人間との温かい関係を描いています。この映画は、イスタンブールの美しい風景と共に、そこに暮らす猫たちと地元の人々との触れ合いをドキュメンタリー形式で紹介しており、2017年に公開されました。監督はジェイダ・トルンさんで、この作品はアメリカでも大ヒットし、外国語のドキュメンタリー映画としては歴史的な成功を収めました。

なぜイスタンブールは猫の街になったのか?

では、なぜイスタンブールは猫の街として知られるようになったのでしょうか?それにはいくつかの歴史的背景があります。

イスタンブールは、東西の文化が交差する都市として古くから繁栄してきました。この街は海に面しており、オスマン帝国時代、エジプトから貿易船に乗って猫が持ち込まれたと言われています。それ以降、猫はイスタンブールだけでなくヨーロッパへも広がっていきました。また、イスラム教の預言者ムハンマドが猫を大切にしていたことも、トルコで猫が特別な存在として扱われる理由の一つかもしれません。

しかし、20世紀に入ると、欧米諸国と同様に、野良犬や野良猫を駆除する政策が導入されました。1910年には、イスタンブールの野犬が大量に捕獲され、孤島に送り込まれる「犬の大虐殺」が行われ、その数は8万匹に達したと言われています。この悲劇はイスタンブールの歴史に暗い影を落としましたが、その後の地震などの災害が神からの罰だと信じる人もいました。

法的保護と共存の道

1990年代に入っても、野良動物の駆除は続きましたが、2004年に「動物保護法」が施行され、地方自治体には猫や犬を保護する義務が課されました。その後、エルドアン現大統領が首相だった2012年には、野良犬や猫を公園に収容するという法案が提出されましたが、イスタンブール市民の大規模な抗議によって、この法案は廃案となりました。

現在でも、イスタンブールでは猫や犬が人々の生活空間で共存しており、トルコでは動物の殺処分は行われていません。地域によっては猫や犬への扱いが異なることもありますが、イスタンブールは特に動物たちが尊重される都市として知られています