明日食べるものにも困っているという人たちにとって、生命線とも言えるフードバンク。その活動が、いま危機に陥っています。
長引くコロナ禍や深刻な物価高の影響で、食料品の寄付が大幅に減っているのに対し、支援を求める家庭が増え続けているのです。
10月も多くの食料品が値上げされる中、必要な人たちに必要な食料を届け続けるためにはどうすればいいか、考えます。
物価高 シングルマザーの不安
山梨県東部に暮らす30代のシングルマザー、かおりさん(仮名)です。
離婚後、パート社員として地元の工場で働きながら、5歳から高校1年生の4人の子どもを育てています。
新型コロナウイルスの影響で、仕事が休みになることなども増え、ここ数か月の収入は月8万円にもなりません。
そんなかおりさんが、頼みの綱としているのがフードバンクから送られてくる、さまざまな食品です。フードバンクは企業や家庭などからの寄付で集めた食品を提供して、生活困窮家庭を支える活動です。
食べ盛りの子どもたち。一番下の5歳の女の子は届いた箱の中にお菓子を見つけると、「おせんべい。私が好きな食べたかったやつ」と話し、笑顔を見せました。
新型コロナウイルス流行の長期化に加え、食品や電気代、ガソリン代など暮らしに欠かせない、あらゆるものの価格が高騰し、かおりさんは不安を募らせています。
「子どもが多くて、食べ盛りの子もいるのでかなり大変になってきています。本当にいつまでこんなことが続くのかなって。コロナと社会情勢を考えると、先行きがすごく暗くて本当に困ったなというのが本心です」
フードバンクへの寄付 3割減も
フードバンク山梨では、かおりさんのようなシングルマザーや高齢世帯など、生活に困っている人たちから話を聞いて、よりよい支援のしかたを模索しています。
新型コロナの流行以降、支援を求める声は増え続け、去年はおよそ1万世帯に食品を提供して支援してきました。
ことし2月以降もさらにそうした声は高まり、「あす生きていくのも危うい」といった緊急支援の要請が300件以上寄せられているといいます。
しかし、ここにきてフードバンク山梨では、支援をいかに継続するのかに頭を悩ませています。肝心の食料の寄付が去年と比べ3割も減っているためです。
「コロナ禍、さらに物価高ということで非常に苦しい生活を強いられている方が増えています。私たち自身も大量に食品が必要になっていて、支援してくださる方が増えていかないと、この活動が成り立っていかない状況です」
物価高 企業も苦しむ
いったいなぜ寄付が減っているのか。
山梨県中央市にある県内最大手の食品卸売会社では、フードロスを減らしてSDGsに貢献しようと、去年からフードバンクへの寄付を行っています。
しかし、ここ数ヶ月で状況は変わってしまったといいます。
「去年は実際約80キロぐらい商品を集めることができたんですけど、ことしは実際に量ってみると、50キロぐらいしか集めることができませんでした」
さらにこの会社だけでなく、取引先も仕入れや製造の際に徹底したコスト削減を余儀なくされています。先行きの景気回復の不透明感もあり、寄付に回す余裕がなくなっているのです。
「こちら側も寄付していきたいという気持ちはあるんですけれど、この状況が続いていくと、やはり寄付は難しいかなと思います」
“なんとか支援 つなぎたい”
フードバンク山梨の倉庫ではこれまでいっぱいだった食料品の棚に、少しずつ空きスペースが目立つようになってきているといいます。
このまま支援物資が減り続ければ、ギリギリの生活をする困窮家庭が、さら苦しい状況に陥ってしまうのではないか。
危機感を強め、新たな企業にお願いにいくだけでなく、これまでに寄付をしてくれている先からも幅広く追加の寄付を募るなど、なんとかして支援をつなごうとしています。
「市民の皆さま全体の応援がないと、できない活動ですから、そういった機運を社会全体で共有して、大変になっている弱い立場の方々をなんとか支援できるように、これからもしていきたい」
困ったら迷わず相談を
ただ生活に困っていることを知られたくないなどの理由から、相談をためらうケースもあるとみられています。協議会では職を失ったり、収入が減ってしまったりして生活に困っている場合などは躊躇せずに、まずは自治体の福祉課や地域の社会福祉協議会などに相談してほしいとしています。
そうすれば行政からフードバンクに連絡が来て、支援することができるということです。
食品ロス削減 賛同から参加へ
ではフードバンクの危機を乗り切るにはどうすればいいのか。
鍵となるのが食品ロスを削減したい企業や個人と、フードバンクへの寄付とのマッチングを強化することです。本来食べられるにもかかわらず、捨てられる食品ロスの量は農林水産省の推計値で2020年度は522万トンにものぼっています。
このため自治体や企業、民間の支援団体とが連携して、より寄付をしやすい仕組みづくりや情報の発信を強化していくことが求められています。とくに自治体は各地域の事情に詳しいからこそより積極的に関わり、支援を希望する企業の掘り起こしや支援を必要とする家庭の実態把握などを行うことが期待されています。
一方、個人では、フードバンクに送ったり持ち込んだりすることは少しハードルが高いと思うかもしれません。そこで受け皿となっているのが一部のコンビニ、学校、自治体の窓口などです。このうち大手コンビニチェーンの1つでは10月4日現在、全国1800以上の店舗で未開封の常温保存などができる食品を寄付できるようになっています。
ただこうした生活に身近な場所での寄付の受け付けはまだ一部にとどまっており、すそ野をもっと広げていく必要があります。
10月以降もさまざまな食料品の値上げが予定されていて、物価高はしばらく続く見込みです。苦境を乗り切るために、賛同するだけでなく参加へと意識を変えて、社会全体で一歩踏み出していくことが求められています。